昨日、9月に公開されるフィンランド映画『サウナのあるところ』の試写会に行ってきました。81分たっぷりと男性の裸体を観続けるという、滅多にできない体験。
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『サウナ/Sauna』とは、恐らく世界中で使われている唯一のフィンランド語で、フィンランド人の暮らしには欠かせないものです。日本のお風呂のように一般住宅はもちろん、公共のサウナもあり、なんと戦争中も簡易サウナを組み立てて入っていたというから、もしかしたら日本人の風呂への情熱を超えるのかも知れません。
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さて、話は映画に戻って。『サウナのあるところ』は普段無口なフィンランド人がサウナでは饒舌に個人的な話をするのを面白いと思ったバリヘル監督と、ホタカイネン監督によって撮られ、2010年に公開された映画です。フィンランドでは1年以上のロングランになったヒット作。
私たちは登場人物のバックグランドを知らないまま、(もちろん)裸なので、服装から推測も出来ず、先入観なしに彼らの話に耳を傾けていきます。肉体労働者なのか、エリートサラリーマンなのか、軍人なのか、ホームレスなのか、元犯罪者なのか、都会なのか、田舎なのか、語りを聞くうちに彼らの背景が少し見えてきますが、詳しい説明はありません。
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裸の男たちは、自分の立場ならこう振舞うべき、男ならこう振舞うべき、というしがらみから解放されたように、心の奥にしまっていた悲しみ、苦しみ、キツイ体験をぽつぽつと語り、時にはむせび泣きます。ドラッグ、離婚、虐待…幸福度1位の国の影の部分も体験者の言葉として語られているのが胸に迫ります。
キツイ体験からのハッピーエンド、ユーモアにあふれたエピソードなど、思わずニンマリとしてしまう場面もあり、ただサウナに入っているだけという単調な画面にも関わらず、話の構成に飽きることがありません。
NHKの『ドキュメント72時間』をご存じでしょうか?特定の場所に72時間定点観測カメラを設け、訪れた人々に何故ここに来たのかインタビューする番組です。私たちの隣にいてもおかしくない人たちが語る人生の悲喜こもごもに、時には衝撃を受け、時にはあたたかな思いに包まれ、時には深く考えさせられる人気のドキュメントです。
『サウナのあるところ』も同じように、男たちが語る心の内に泣き、笑い、微笑ましくなり、どんな人の人生も決して楽なものではなく、かといって苦しみばかりではないのだとシミジミとした思いが胸に広がります。
映画を観ながら、フィンランドの知り合いたちの顔を思い浮かべ、彼ら、彼女らも私たちと同じように苦しみや喜びと共にあるのだと思わずにはいられませんでした。
『Be kind, for everyone you meet is fighting a hard battle』
Ian Maclaren
『親切であれ。あなたの出会う誰もが困難な戦いのさなかにある。 』
イアン・マクラーレン
『ドキュメント72時間』 のようなドキュメンタリーが好きなら、フィンランドの裸の声を聞きたいと思っている方なら、お勧めの映画です。
実は一番ユーモアのある話のオチが予告編で流れてしまっているので、笑うところで笑えなかったのが残念。観る予定の方は予告編を観ないで行くのがいいかも!
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2019 年9 月14 日、アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺、新宿シネマカリテほか全国順次公開。
■公式HP:https://www.uplink.co.jp/sauna
2010 年/フィンランド/フィンランド語/ドキュメンタリー/81 分
原題:Miesten vuoro /英題:Steam of Life
監督:ヨーナス・バリヘル、ミカ・ホタカイネン
提供・配給:アップリンク+ kinologue
ミタ